
双極性障害で見られる躁状態や抑うつ状態の患者への対応や看護ってどうしたらいいの?看護計画とかアセスメントとか実際のケアを教えてほしい。
こういった疑問にお答えします。

同調しすぎても、冷静すぎる対応でも躁状態を増長してしまうので困ってしまいますよね。
そこで今回は、双極性感情障害について下のとおり解説。
✔本記事の内容
- 双極性感情障害とは
- 躁状態での看護
- 抑うつ状態での看護
などなどをまとめて解説。
この記事を読めば、ざっくりと双極性感情障害の臨床での看護や、看護学生の実習での精神科アセスメントの方法などがわかりますよ。
ちなみに精神科に興味のある方は下の記事が参考になります。
参考【2020年版】精神科看護師への転職マニュアル【結論:ラクに看護できます】
目次
双極性感情障害とは
双極性感情障害とは、気分障害の一部で気分高揚感がおこる躁状態と、気分の落ち込みを引き起こす抑うつ状態とを行き来する病気です。
双極性障害の躁状態では、気分の高揚、観念奔逸などが特徴的です。爽快な気分である一方で、しばしば度を超えた行動が見られたり、ちょっとしたことでもイライラや興奮したりします。下のようなエピソードが主にあります。
- 自尊心の誇大または肥大
- 睡眠欲求の減少(数時間の睡眠で良く休めたと思う)。
- 多弁で、周囲の状況を気にせずにずっと話続けようとする。
- 観念奔逸(考えがまとまらず、いろいろなアイデアが 継ぐ次に浮かんでくる)。
- 注意散漫(集中できずに、すぐに他のことへ関心が向いて、 次々と転じる)。
- 活動性の亢進(社会的、性的、職業的な面で次から次へと 行動を起こす。じっとしていられない)。
- 快楽的活動への他人から見て明らかに不毛なことに熱中する(生活費の全てを通販で使い果たす、異性に次々に好意を寄せる)。
逆に双極性感情障害の抑うつ状態では、気分の落ち込み、意欲低下、希死念慮などが見られます。
患者には、自覚症状がない場合が多いですが、日常生活がままならないこともあります。たとえば、無駄な買い物をしてしまったり、食事量をコントロールできなかったり、トイレやお風呂などの行為もできていなかったりします。
爽快な気分になっていると、患者は自分が病気であるという病識も薄れていき、通院や内服の必要性を感じなくなります。結果、通院や内服の中断、入院治療に抵抗をみせます。
思考や行動が抑えられないこと、日常生活がままならないこと、病識にかけて治療に非協力的であることなどが躁状態では看護問題となってきます。

躁状態ってどんな状態?
躁は、抑うつと対極に位置づけられる精神的活動性と身体的活動性が亢進した状態をいいます。具体的に躁状態とは、爽快な気分になったり気分が高揚していい気分になる躁性感情障害、よく話すようになったり落ち着いていられなくなる意欲や行為の障害、次々と話が移り変わる観念奔逸などが見られる状態です。また、なかなか寝つけない睡眠障害や、過食気味になる食欲の亢進も一緒に見られることが多いです。
躁状態になると、自己中心的な考え方をして、自分の行動を妨げられたり、考えを否定されたりすると、イライラしたり興奮したりする易刺激的な状態になります。
躁状態ではどんな症状がみられるの?
躁状態では下のような症状が見られます。
- テンションが高い爽快気分
- 考えが次から次へとでてくる観念奔逸
- さまざまな症状につながる思考や行動の障害
- 多動や思考奔逸からの睡眠障害
- 体重減少していく栄養障害
順番に解説します。
テンションが高い爽快気分
躁状態となっている患者は、爽快な気分が湧き水のように湧いてくるため、気分が高揚して、自分自身を過大に評価して自信に満ち満ち溢れている状態となる。これを爽快気分といいます。自信や希望に満ち溢れ、自分が優秀であると感じることも多くあります。爽快な気分なため、患者はよくしゃべり、声高になります。
また自分の考えや行動を止めようとしたり注意したりすると、攻撃的になる場合もあります。
考えが次から次へとでてくる観念奔逸
観念奔逸とは、考えが次々と溢れ出して、話の内容が飛躍したり、現実離れしたことを考えてしまう状態です。たとえば、食事の話をしていたと思ったら、次には睡眠の話になったりと、話の内容にまとまりがなくなるのも特徴です。
さまざまな症状につながる思考や行動の障害
患者は考えが次々と浮かび上がるため、やりたいことや行動にもまとまりがなくなり、多弁、多動の状態になります。これを意欲や行動が障害された状態です。
昼夜問わずに電話や連絡を頻回にしたり、不要なものをたくさん買ったり、規制速度を大きく超えた無謀な運転をしたりと、行動にもまとまりがなくなります。
多動や思考奔逸からの睡眠障害
躁状態の患者は、睡眠の欲求が少なくなります。その結果なかなか床につけなかったり、寝たと思ってもすぐに床から出てきたりします。また寝たとしても睡眠が浅く、小さな物音でも起きてしまいます。
また、睡眠が短くても、患者は疲労感を感じていないことも多いです。
体重減少していく栄養障害
患者は、躁状態になると、暴飲、暴食など過食傾向になる。一方で、摂取カロリーに比較して、多動や活動性の亢進により消費カロリーが多く、体重減少しやすい。
双極性障害に見られる躁状態の看護、対応とは
躁状態で問題となる以下のことに対応した看護を行うことが大切になります。
- 思考や行動が抑えられない
- 日常生活がままならない
- 病識にかけて治療に非協力的である
これらの症状に対応した看護は以下のようになります。
思考や行動の亢進を抑える
躁状態の患者は、自己中心的な思考やコントロールを失った状態にあるため、言動や行動がまとまらず、周囲への影響が大きくなる。たとえば、無駄な運転をしようとしたり脱衣したりする逸脱行為、友人や家族への暴言暴力などといった危険行為や迷惑行為がある。
まずは、個室や刺激の少ない環境を患者に提供して、患者自身や周囲への影響を最小限にとどめることが重要である。
躁状態では、ささいな言葉や医療スタッフの関わりへのクレームなど易刺激的となる。
患者に直接関わる看護師は、声のトーンや表情を落ち着いたものにして関わる。また、患者が明らかにおかしなことや要求をしてきても、過敏に反応して否定し議論したり、説得したりする対応は避けます。また、患者が一方的に話して話が切れない場合には、内容を要約して「これこれこういうことですね?」と伝えましょう。長時間の会話は患者の刺激となり、躁状態を悪化させる可能性があります。
看護師はチームで対応を統一して、首尾一貫した対応をできるように情報共有しましょう。
看護師によってカラーやキャラクターが違うのは仕方ないことですが、冷たすぎる対応や説得するような態度で関わると刺激になります。
患者の感情を否定せず、同調できる部分には同調することで、患者が看護ケアに協力的になることもあります。
清潔行為や食事などの日常生活を調整する
躁状態の患者は、自己評価が過大になり思考や行動が誇大化する一方で、判断力が低下します。その結果日常生活動作がまとまりないものになります。
思考がまとまらず、トイレや更衣、入浴などの清潔行為ができない場合には、排泄や清潔動作が安全にしっかりできるように介助します。
暴飲暴食の場合には、多動による消費エネルギーも加味し、単純に食事量を制限せず、一回の量を減らして回数を増やしたり、間食を促したりして工夫して関わります。
お金の管理ができず浪費してしまう場合は、家族の協力のもとで調整し、現実的にお金を使えるようにします。
内服の管理と副作用の確認
躁状態のときには、思考がまとまらず、病識に欠けます。基本的には治療や内服の必要性を説明が必要です。しかし、躁状態ではなかなか病識が持てないこともしばしばあります。
まずは、内服がしっかり行えているか確認します。医師の指示に基づいた気分安定薬、不眠時の頓服、鎮静薬などを与薬し、休息がとれるように関わりましょう。
また過鎮静状態になっていないか、リチウム中毒をはじめとする副作用が発生していないか観察します。
気分が落ち着いてきた段階で、しっかりと内服や治療の必要性を理解してもらうための疾病教育を促していきましょう。

抑うつ状態ってどんな状態?
あなたは「うつだー」「気分がのらないなぁ」とおもったことはありませんか?精神科で仕事をしている私もよくそのように思います。一般の人が思う「うつだー」と、うつ病での抑うつと言われる状態とでは大きな差があります。抑うつ状態になると、自傷や自殺企図などのもっと深刻な状態になっていることも少なくありません。
医療従事者であれば、抑うつとはどのような状態なのか、どのような症状が出るのか知っておいて損はありませんよ。
抑うつ状態とは、躁状態とは対極に位置付けられて、気分が沈んで、身体的にも精神的にも活動性が低下し、悲観的になっている状態を言います。
うつ病では典型的な症状として、
- 抑うつ状態
- 興味や喜びの喪失
- 易疲労性
の3つの症状が現れますが、すべての症状の根底にあるのは抑うつ状態による感情、思考、集中力、判断力の低下にあります。
抑うつ状態から見られる症状ってどんなもの?
抑うつ状態になると、患者は感情、思考、意欲や行動などのさまざま面で障害が起こります。特に、抑うつ状態になると、何かをやろうとする根源となるエネルギーが不足、枯渇した状態になります。自己への評価が低くなり、何もかもが悲観的で否定的となり、自傷や自殺などのリスクも高まります。
ではうつ状態になるとどのような症状が出るのでしょうか。いかにまとめます。
- 感情の障害:抑うつ気分
- 思考の障害:思路障害、思考内容の障害
- 精神運動抑制
- 睡眠障害
- 自傷行為、希死念慮、自殺企図
上記の症状について順番に解説していきます。
気が滅入り無気力になる抑うつ気分
「気が滅入ってしまった」「気が落ち込んでしまった」などいった患者の言葉や表現を聞いたことはありませんか?患者は抑うつ気分になるとこのような表現をして自分の気分を表現します。
抑うつ気分は、一連の流れを経て徐々に悪化していくケースがほとんどです。抑うつ気分とは、まず気分の落ち込みが現れます。抑うつ気分の患者の表情は、暗く活気がなくなり、声色や声量も小さく、力を感じられなくなります。気分の落ち込みがひどくなると、「感情が浮かんでこない」といった無感情、無感動状態になります。それがさらに悪化すると、何もできない自分への自己評価が下がり、罪業的になったり自責の念にかられたり、悲観的否定的な感情が強くなり、しまいには「自分の存在意義が感じられない」「生きている意味がないと感じる」など絶望感に苛まされるようになります。抑うつ気分は、一連の流れで悪化していきます。
抑うつ気分は日内変動があり、朝方は調子が悪く、何もやる気がでないことが多く、比較的に夕方になると気分が改善してくる傾向にあります。
考えが停滞してしまう思路障害と、悲観的自制的になる思考内容の障害
抑うつ状態になると、考えていることが前に進まずに停滞して状態になります。この状態を思路の障害と言います。思路とは、思考がある目的に向かって進んでいく過程を言います。「考えが進まない」「考えが止まってしまった」「頭がからっぽだ」といった表現をします。思路の障害と間違われるものに、観念奔逸があります。思路の障害は思考が停滞してしまう状態を指し、思考がどんどん沸いて出てくる観念奔逸とは対照的な状態です。
思考内容の障害は、悲観的になったり自責的になって、自分の存在価値が無意味なものに感じてしまう微笑妄想を呈します。「自分と関わったから不幸になった」という罪業妄想、「自分は治らない病気になってしまった」心気妄想などが微笑妄想にあたります。すべてのことを否定的悲観的にとらえてしまうという特徴があります。
何をやるのもおっくうになる精神運動抑制
何をするにもやる気が出ない状態を精神運動抑制といいます。例えば、日常生活動作が緩慢になったり、おっくうになったりして、周囲からみると「怠けている」と捉われてしまうことも多いです。患者本人はやらなければいけないと感じて必死にやっているが、やる気がでてこず時間がかかってしまうため、苦しくつらい状態とも言えます。精神運動抑制も悪化すると、意識はあるが発語することや行動することができなくなる抑うつ性昏迷という状態になることもあります。
眠りが浅くなる睡眠障害
抑うつ患者のほとんどの患者に現れる症状として、眠りが浅くなる睡眠障害です。眠りが浅くなる熟睡障害に加えて、2時や3時などに目がさめてしまう早朝覚醒や、寝入ることが困難になる入眠障害も併発することもあります。また、寝起きの気分がすぐれない気分不快感も特徴的な症状です。
絶望感や無価値観からの自傷行為、希死念慮、自殺企図
抑うつ状態でもっとも注意しなくてはいけないのが、自傷行為や希死念慮、自殺企図です。抑うつ状態になると、自己評価が著しく低下し、不安感、不満感、絶望感に苛まされ、自分の無価値観が強くなり、死にたいという気持ちになります。特に抑うつの発症初期や、抑うつ状態から回復してきて現実問題に直面した時などに、自殺企図が発生しやすくなります。
はっきりしない不定愁訴などの症状
抑うつ状態では、身体に器質的な異常がないにも関わらず、頭痛や倦怠感、易疲労感を訴える不定愁訴も特徴的な症状です。患者の不定愁訴の根底には抑うつ状態による気分の落ち込みがあり、そこから身体的な症状が現れていると感がられます。「発熱はないので異常はない」「気のせいではないか」などと無下にあつかうと、患者の抑うつ状態を悪化させる可能性もあるので、丁寧な対応が必要です。
抑うつの看護の観察ポイント
抑うつの看護の観察ポイントは以下のようになります。
- 身体面:頭痛、発汗、倦怠感、易疲労感、自律神経症状、食欲、水分摂取量、体重、口渇、便秘
- 精神面:抑うつ状態、不安、焦燥感、絶望感、自責の念、思考制止、思考抑制、微小妄想、悲観的、気分の日内変動
- 行動面:制止、寡言、寡動、昏迷、自傷行為、自殺企図
適宜、観察ポイントを参考に、患者の抑うつ状態をアセスメントし、命の危機に瀕する自殺企図の回避が重要です。以下抑うつ患者への看護においても観察ポイントを念頭にケアを行いましょう。
抑うつ患者への看護
抑うつ患者への看護は下のようなものがあります。
- 安心してきゅうそくできるよう環境調整
- 抑うつ的な考え方や物事の見方を修正
- 日常生活動作の支援
- 自傷行為と自殺企図の予防
順番に解説します。
安心して休息できるよう環境調整
抑うつ状態にある患者は、性格的に真面目で融通がきかず何事にも全力を尽くす気質があります。努力がたりないからと考えて上手に息抜きや休息をとれていないことも多いです。
まずは、仕事のことやストレスのかかっている物理的環境から離れて、安心して休息できる環境を整えてあげましょう。
また、疲れ切っている患者への「がんばろう」「元気を出そう」などの励ましは、患者の抑うつ状態を悪化させる原因となります。
家族や同僚、医療スタッフは患者の負担にならないように距離感を持って、患者の辛い気持ちや苦しい想いに寄り添うことが大切です。
抑うつでの考え方や見方を修正する
抑うつ状態になると、ネガティヴな考え方や見方にとらわれる傾向にあります。そこから抜け出せず、自責的、罪業的な思考から抜け出せなくなります。
抑うつ状態での考え方や見方を、患者自身に気づいてもらい、考え方を修正していくことが重要になる。
たとえば、自由に発言する場を提供して、患者の行動や言葉が他人を傷つけたり、悪い影響を与えないことを知ってもらえる関わりが必要です。集団療法などのグループダイナミックを利用してもいいですし、患者のエネルギーがない場合には一対一で話す場でも良いでしょう。時間がかかっても患者自身が自分の言葉で表現できるようにすることが大切です。
日常生活動作を支援する
抑うつ状態では、食事やトイレ、お風呂などの日常生活動作が不十分になります。
食事は、食事量や飲水量など客観的なデータと、患者自身が訴える症状などを加味して、患者が食べられるものを摂取してもらいましょう。間食やお菓子を利用するのもよいでしょう。
トイレなどの排泄行動は、患者の意欲低下や、抗うつ薬の副作用により、尿が出なくなったり、便秘になったりします。こちらも、腹部聴診、膨満感の確認などの客観的データと患者の訴えを加味して、トイレ促しや下剤の与薬などを検討しましょう。
お風呂や洗面、歯磨きなどの清潔行為も、気が回らない場合もあります。起きるだけでも精一杯のときもあります。ベット上で可能な範囲でやってもらうことや、できないときにはできないでも構いません。
日常生活動作ができないことで、患者が「自分のこともできないなんて」と無価値観や絶望感が増すこともあります。過度の介助は、患者の自尊心を傷つけたり、無力感を強めるため、自分でてきるところは自分でしてもらい、できないときはできないでもよいということを念頭に看護を行いましょう。
自傷行為や自殺企図の予防と回避
抑うつ状態になったときは自殺念慮が強く自殺のリスクが高まります。また抑うつ状態から回復してくると現実の問題や壁に直面し自傷や自殺の行動が高まります。
患者の自殺リスクを常に観察して、死にたい気持ちや自殺しそうな気持ちが高まっているときには、危険物を除去しましょう。またうつ病をはじめとする精神疾患の影響で死にたくなっていることを伝え、病気はよくなることを伝えます。自殺しないことを約束することも重要ですが、鵜呑みにしないように行動観察が大切です。
【まとめ】双極性感情障害を知れば精神科看護の基礎が身につく
双極性感情障害の看護を知れば精神科看護の基本が身につきます。
なぜなら、
- 傾聴
- 日常生活動作の援助
- 自殺の行動化リスクのアセスメント
といった精神科では基本となる看護が実践できるから。
その他にも統合失調症の看護や精神科看護師ってどんな仕事なのか気になる方は下の記事を参考にしてみてください。
参考【必見】現役精神科Nsが『統合失調症の看護』を徹底解説【観察ポイント、アセスメント、看護目標も】
参考【2020年版】精神科看護師への転職マニュアル【結論:ラクに看護できます】